観測制民主主義⑯ 国家は何をやめたのか――「実績評価→歳出削減→資源再配分」を監査する

 


観測制民主主義⑯ 国家は何をやめたのか――「実績評価→歳出削減→資源再配分」を監査する

今回の監査対象

今回の監査対象は、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」です。
 高市総理は2026年6月24日の経済財政諮問会議・日本成長戦略会議合同会議において、
「効果が上がっていない施策は大胆に見直す」 と述べました。
 また、「強く豊かな日本」投資枠について、投資誘発効果の薄い予算を柔軟に見直すこと、
基金についても成果管理を徹底し、基金ルールを見直すことを示しています。
つまり、今回の監査では、 「新しい政策に、いくら使うのか」 だけを
見るのではありません。
 
むしろ先に、 「今までの政策について、何をやめるのか」 を確認します。

第一の監査――「見直す」とは、何を意味するのか

政府には、すでに行政事業レビューという仕組みがあります。
各府省庁の事業について、その必要性、効率性、有効性などを点検し、
その結果を予算要求や執行などに反映させる仕組みです。
したがって、 「日本政府には既存事業を評価する仕組みがない」
ということではありません。
 ここは明確に区別します。

【確認できること】

 既存事業を評価する制度は存在します。

【今回の監査で確認すべきこと】

 その評価によって、 「実際に何を廃止したのか」
 「何を縮減したのか」 「いくら歳出を減らしたのか」 です。

制度が存在することと、
国家の資源配分が実際に変わったことは、同じではありません。

第二の監査――「何をやめたのか」

ここからが本格的な監査です。
高市総理が、 「効果が上がっていない施策は大胆に見直す」
と述べた以上、次のような記録を探します。
  • 廃止された事業
  • 縮減された事業
  • 予算額が減額された事業
  • 基金から国庫へ返納された資金
  • 事業そのものが別制度へ変更されたもの
そして、それぞれについて、 「なぜ減ったのか」 を確認します。
 単に予算が減っただけでは、 「効果が乏しかったから削った」 とは断定できません。
 制度変更、事業終了、需要減少、他制度への統合など、別の理由も考えられるからです。
したがって、 予算額の変化と、その理由をセットで確認する。

これが今回の監査方法です。

第三の監査――削った資源は、どこへ行ったのか

ここが、今回もっとも重要な部分です。
 仮に既存事業を100億円削減したとします。
 それだけでは「資源再配分」とは言えません。

 その100億円が、
  • 国債発行額の減少に使われたのか
  • 別の既存政策へ移ったのか
  • 新規政策へ移ったのか
  • 17分野の投資促進策へ回ったのか
  • 基金など別の形で確保されたのか
ここまで追跡して、初めて「資源の移動」が確認できます。
今回の監査で見るべき回路は、
既存政策

実績評価

継続・改善・縮減・廃止

歳出の変化

資源の移動

新規投資
です。

第四の監査――17分野は「新しい予算」なのか

2026年7月21日、日本成長戦略と、戦略17分野における
「主要な製品・技術等」の官民投資ロードマップが決定されました。
 政府資料では、62の「主要な製品・技術等」について、
2040年度までの官民投資額を合計すると、現時点で370兆円超と想定されています。
ただし、ここは数字の意味を正確に見る必要があります。
370兆円超とは、
政府が370兆円を支出するという意味ではありません。
官民合計の投資額です。
また政府自身が、 「現時点での想定規模」 であり、
今後さらに精緻化すると説明しています。
したがって、 「370兆円を政府がばらまく」 と読むのは正確ではありません。

第五の監査――それでも「政府の資源投入」は存在する

しかし、だからといって政府の役割が小さいわけでもありません。
官民投資ロードマップは、政府による国内投資支援、需要・市場の創出、
立地競争力強化、国際連携などの政策パッケージを前提として作られています。
つまり、 民間投資を誘発するために、政府が政策資源を投入する。
この構造です。
ここで監査対象が生まれます。
「民間投資を誘発するために、政府はいくら投入するのか?」
 そして、 「その政府支出は、既存歳出の削減によって生み出されたものなのか?」 です。

第六の監査――「370兆円」の前に、評価装置はあるのか

ここは非常に重要な観測です。
 17分野の投資そのものについて、政府側の資料にもPDCAを回し、
投資額や施策を今後精緻化・改定していく考え方が示されています。
 さらに、
日本成長戦略会議の委員である片岡剛士氏は、17分野について、
「計画の中間評価」 や、 「投資及び成長に対する影響評価」 といった
具体的なチェック機能を誰が、どう行うのかを検討する必要があると指摘しています。 ここは重要です。 つまり、 新規投資についても「投資すること」だけでは終わらない。 投資後に、 「実際に投資されたのか」 「どの程度の成長効果が出たのか」 「民間投資をどれだけ誘発したのか」 を確認する必要があります。

ここで二つの監査線が交差する

今回の監査では、二つの線を同時に追います。 第一の線 既存政策 ↓ 実績評価 ↓ 縮減・廃止 ↓ 歳出削減 第二の線 新規重点分野 ↓ 政府支援 ↓ 民間投資誘発 ↓ 成長効果 そして、その二つの線の間に、 「資源再配分」 が存在するのかを確認します。

こども家庭庁も、この監査線に置いてみる

ここで、前回までに観測してきた「こども家庭庁」が登場します。 ここでも、 「予算が大きいから無駄」 とはしません。 見るべきなのは、 投入した金額に対して、どのような成果が確認されているのか。 そして、 その成果評価が翌年度以降の予算にどう反映されたのか。 です。 児童手当。 保育。 放課後児童クラブ。 障害児支援。 虐待防止。 ひとり親支援。 大学授業料等への支援。 こうした既存政策について、 予算額 → 執行額 → 政策目的 → 実績 → 評価 → 翌年度予算 という線で追跡します。 そこで、 「継続」 「拡大」 「改善」 「縮減」 「廃止」 のどれになったのかを見る。

「無駄」を探すのではない

今回の監査で探しているのは、単純な「無駄」ではありません。 探しているのは、 国家が自分自身の歳出を、実績に基づいて組み替える能力を持っているのか。 ということです。 たとえば、 効果の乏しい事業を発見した。 ↓ 事業を縮小した。 ↓ 100億円の資源を確保した。 ↓ その100億円を新しい成長分野へ移した。 ↓ 新しい投資の成果を評価した。 ↓ 効果が乏しければ、また見直した。 この循環が存在するなら、 「実績評価に基づく資源再配分」 が作動していることになります。 逆に、 新しい政策は次々に追加される。 しかし古い政策はほとんど減らない。 その結果、歳出だけが積み上がっていく。 ならば、 「資源再配分」ではなく「政策の上乗せ」 である可能性があります。

現時点での監査結果

ここまでの資料から、現時点で確認できることを整理します。 【確認①】 高市総理は「効果が上がっていない施策は大胆に見直す」と明言しています。 【確認②】 投資誘発効果の薄い予算を柔軟に見直す方針も示しています。 【確認③】 基金について、成果管理を徹底し、基金ルールを見直す方針も示しています。 【確認④】 17分野について、官民投資ロードマップが策定され、2040年度までの官民投資額は現時点で370兆円超と想定されています。 【確認⑤】 17分野の投資についても、政府資料上、今後の精緻化・PDCA・改定が想定されています。 【確認⑥】 一方、 「既存歳出の実績評価」→「具体的な歳出削減」→「削減資源の新規重点分野への移転」 という一本の流れについては、今回確認した資料だけでは確認できていません。

ここから先が、本当の監査になる

したがって、今回の結論を、 「高市政権は無駄を削っていない」 とするのは早すぎます。 逆に、 「ちゃんと見直しているから問題ない」 とするのも早すぎます。 まだ、 「何をやめたのか」 を具体的に確認していないからです。 次の監査では、ここを一つずつ追います。
  • 各省庁の主要歳出
  • 行政事業レビュー
  • 基金の残高と執行状況
  • 廃止・縮減事業
  • 前年度からの予算増減
  • こども家庭庁など既存政策
  • 防衛・安全保障関連歳出
  • 新しい17分野への政府支援
そして最終的に、 「減った予算」と「増えた予算」 を一本の線でつなげられるかを確認します。

監査の核心

今回の観測から、監査の核心を一つに絞ります。 高市政権は、国家予算を「追加」しているのか。 それとも、 既存政策の実績を評価し、不要・低効果な歳出を削り、その資源を新しい成長分野へ「再配分」しているのか。 この違いです。 そして、この違いは単なる財政論ではありません。 国家OSの資源配分回路が、実際にどのように動いているのか。 それを見るための監査になります。

次回監査へ

次は、いよいよ数字に入ります。 「何をやめたのか?」 政府の予算資料と行政事業レビューを照合し、 「廃止されたもの」 「縮減されたもの」 「増額されたもの」 を拾います。 そして、その増減が17分野の新規投資とつながっているのかを見る。 そこで初めて、 「実績評価 → 歳出削減 → 資源再配分 → 新規投資」 という回路が、現実の予算の中に存在するのかどうかが見えてきます。

監査継続

今回、まだ結論は出していません。 確認できた事実と、確認できていない事実を分けました。 次に必要なのは、 言葉ではなく、予算の痕跡です。 「何をやめたのか。」 ここから、国家OSを動かす政治OSの実態を、歳出の流れから追跡します。
――監査継続。

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